色覚異常

今春に入って初めて桜の花を見てからというもの、桜の花以外全てが白黒に見えるので病院に行った。

まず眼科、次に心療内科に行った。

しかし原因がわからないとかで何も解決しなかった。

小さい頃から桜が嫌いだった。

特別な理由はなく、ただ桜の花を見ると醜いと感じた。

私が高校生だった頃国語の教師が、日本人は桜を見て美しいと感じるよう遺伝子レベルで書き込まれているというようなことを言っていた。

それが間違いであることを私は知っていた。

私の存在が反例だった。

私には姉がおり、彼女は桜が好きだった。

彼女の部屋に中島千波という画家の描いた桜の絵をまとめた画集があった。

気は乗らなかったが試しに見てみた。

絵は全て白黒にしか見えなかった。

やはり私の目は本物の、生きた桜の花の色しか判別しないようだった。

なぜ嫌いな桜の花の色だけが唯一判別できるものとして残ったのかわからなかった。

そして私が唯一色を見ることのできる桜の花は私にとってそれでも醜いままだった。

やがて桜が散り始めた。

散る桜は白黒で、枝を離れた途端に色を失った。

来年の桜も私にあの醜い色を見せるだろうか。

白黒の世界を生きていく覚悟が私にはまだない。